演出ノート
三条会 主宰・演出 関美能留
武田泰淳の『ひかりごけ』は、小説部分と戯曲部分にわけられている。小説部分もとても面白いので、ぜひ買って読んでもらえればと思う。
三条会では、17年前に私が『ひかりごけ』で利賀演出家コンクール・最優秀演出家賞を受賞してから、この演目を繰り返し上演してきた。といっても、まったく同じやりかたで演出したことは、ない。おそらく戯曲の内容が考え続ける事柄なので、私自身もずっと考え続けてきたのだろう。正解の演出などあるはずはない。
久しぶりの上演で、4年ぶり。前回は千葉市に構えていた三条会アトリエの運営がうまくいかなくて閉鎖するときで、私はちょっと打ちひしがれていたので、ほぼやけくそで、そのアトリエ最終公演に私の一人芝居として『ひとりごけ』と銘打って上演したのである。
今回は〈『ひかりごけ』三編〉にした。男生徒編と女生徒編と動物(犬)編。友人に3つも作るのって大変じゃないですか?と聞かれたのだが、実はそうでもない。今まで何回となく上演しているので、戯曲から触発された交わらない演出要素がたくさんあり、一本の作品にそれを詰め込めないから三編にしたというのが実情である。
ここで、私なりに三編作り終えた後の感想を述べる。
「男生徒編」どこにだしても恥ずかしくない演劇作品ができた。
「女生徒編」どこにだしても恥ずかしい演劇作品ができた。
「動物(犬)編」これは演劇ではない。
いずれにせよ私は、『ひかりごけ』という人肉食を取り扱った戯曲を「気軽に」見てもらいたかった。また「気軽に」作りたかった。人の肉を食べたとか食べないとかを通して、「私たち人間は誰もが罪深い」ことを描いた戯曲に、私は「気軽さ」を与えたかった。私も罪深い。このことをずっと考え続ける「気軽さ」を持った作品になってくれていればよいのですが。(2018.8.25)